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粟津温泉
※1930年(昭和5年)発行の「全国遊郭案内」より
粟津溫泉
粟津溫泉は石川縣江沼郡粟津町に在つて、北陸本線粟津驛で下車する。
右の四溫泉場は北陸の四大溫泉場で、同時に北陸の四大観楽境に成つて居る。旅館の設備等は實に至れり盡せりで、箱根、鹽原等に優るとも劣る事は無い。明治から大正の初め頃迄は多勢の女中が居て、盛んに春を賣って居たものだつた。所謂「湯女」の一種で、士地では「シシ」と云つて居た。其れが時勢の進運に伴つて獨立した「藝妓」と云ふ職業婦人に昇格して居る。金澤附近は美人系が通つて居るので、仲々美人が多く、性は純朴で情緒は濃厚だ。
遊廓では無いが、何處の溫泉旅館にも妓藝が這入るので、日夜絃歌の絶え間が無い。藝妓の玉代は一時間一圓宛の割合で、十時間置けば十圓の勘定である。特別祝儀は十圓見當で一泊して行く、其の間は絶えず傍に着きつきりで、酒の相手から、唄のはやし、話の相手から、散歩の御供に迄附いて行くと云ふ女房気取りで、一種獨特の情緒がある。右はブルジョワ階級には宜しいが、プロレタリヤ階級には一寸望めない相談だ。所でプロには又プロ相應の遊び方がある。表向きでは出來ないが、事實上茲の旅館の女中は殆んど湯女の一種で、こつそり女中頭に申込めば、美しい当番の女中を廻して與越す。當番の女中は前に云つた藝妓と同じく、すっかり女房取りで身の廻り一切の世話から、酒、談話、唄の相手迄をも勤めると云ふ、誠に變つた仕組みで、同じ女中の仲間でも、客の着いた女中は、女房気取りで他の女中に用を命ずる事が出来る。費用としては、女中頭に一圓程の附け屆けの外に、番の相方には一二圓も握らすれば、後は二日居ても三日居ても、一錢も與へる必要は無いと云ふ事だ。然し此れは極內々の話。
粟津温泉の地図
※地図のマーカーは、粟津温泉街中心部に打っています。
石川県小松市粟津町
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